十月も半ば。冬支度という言葉から、今日は新美南吉の『手袋を買いに』を取り上げます。子狐が手袋を買えた、ほっとするお話。けれど、最後まで読むと、母狐の「ほんとうに人間はいいものかしら」というつぶやきが残ります。
子狐は、間違えて狐の手を出しても、帽子屋さんに手袋を売ってもらえました。母狐は帰ってきた子を抱きしめて喜びます。それでも、人間への戸惑いは残ったようにも読めます。以前、人間に追われたときの怖さは、一度の出来事ではほどけないのかもしれません。
私はつい、うまくいった結末があれば、心配も片づいたように受け取ってしまいます。でも、無事を喜ぶことと、すっかり安心することは、同じではないのですね。
子狐の明るさだけを追うと、母狐の最後の言葉を置き去りにしてしまいそうです。「もう大丈夫」と話を閉じる前に、まだ残っている気持ちにも耳を澄ませたい。温かな手袋を買うお話が、今日は、安心を急がなくてもよいお話にも感じられました。
出典:新美南吉「手袋を買いに」末尾。青空文庫(底本:『新美南吉童話集』岩波文庫、1997年第2刷)。原文を読む
手袋のあとに残る問い

