十月に入り、秋の景色から始まる小説をご紹介したくなりました。カポーティの『草の竪琴』。村上春樹さんの訳です。
冒頭には、秋風が草を鳴らす音を、墓地に眠る人たちの物語を語る竪琴にたとえる場面があります。「人々の声を集めた竪琴だ。」という一文が、心に留まります。
「優しい人だった」「働き者だった」。亡くなった方を、そんな言葉で思い出すことがあります。けれど、一言で表せたことで、その方を分かったつもりになっている自分もいるのかもしれません。
その言葉には収まらない迷いや、私には見せなかった顔もあったのでしょう。大切に思う気持ちがあっても、自分に見えていた姿が、その方のすべてではないのですね。
よく知っているつもりでも、まだ聞いていない話があるんだなあと感じました。誰かがその方の思い出を話してくださったら、知っている話だと思わずに、もう少し聞かせていただきたいと思います。
出典:トルーマン・カポーティ著、村上春樹訳『草の竪琴』新潮社、2025年。引用は10頁、場面は9〜10頁。出版社公式試し読み
まだ知らない、その人

